彼に背を向けたままの私の右肩が、グッと沈んだ。

 何事?

 恐る恐る視線を右に。


 うわっ!

 高級絵画のような麗しいお顔が、私の肩の上に乗っていらっしゃいますが……

 不気味なほど微笑んでいらっしゃいますが……



 「メイド服似合うね。俺を喜ばせるために着てくれたんだよね。ありがとう」


 それは、屋敷の窓ふきをしていたからで……


 「今日だけ君のご主人様にならせてよ。運命の(つがい)からのお願い、優しい琉乃ちゃんなら聞いてくれるでしょ?」



 まるで脅しのよう。

 ニコニコ笑顔って、相手の背筋を凍り付かせることもできるんだね。


 いつの間にか巻き付いていた、唯都さまの腕。

 言わばバックハグ状態。


 「ねっ、いいでしょ?」


 私の耳に悪っぽくて甘すぎる吐息を、遠慮なく吹きかけてくる。
 


 ゼロ距離、無理。

 耳が溶けそう。

 推しの体温が、私の平熱を高温にする事案発生。

 唯都さまの吐息が耳にかかるたびに、呼吸が荒くなってきちゃった。