聞きたかった。
『あいつというのは誰ですか?』って。
でも私の唇は、貝のように閉ざすことを選んだ。
私みたいな他人が心の闇に土足で踏み込んだら、唯都様の心に鋭い刃を突き刺してしまいそうで。
推しには笑っていてほしくて。
「ごめんごめん、変なことを言っちゃった。忘れてね、昨日見た夢ってだけだから」と、ごまかすように両手を小刻みに振った唯都様。
「さっきの俺、怖かったでしょ?」と優しく微笑まれ、「そんなことは……」と私は言葉を濁す。
「小さいころから我流っていう猛獣を飼いならしているからかな。24時間微笑む優しい王子様では居続けられないんだ。ワガママな我流が暴れだしたときは、魔王様モードで野獣を討伐しないと自滅しちゃうんだよ、こっちが。放置だと部屋が大変なことになったりもするし」