「琉乃、先に言っとく。私が運転するバイクの後ろは、カボチャの馬車ほど快適じゃないんで」


 「……あっ、うん」


 「けど、壁と小さな窓で囲まれた馬車の中じゃ、天使のはしごは満喫できないでしょ? 視界が開けてるバイクだからこそだしね」


 「天使の……はしご?」


 「綺麗だよね。わたし久々に見た。鷹哉も綺麗だって思うでしょ?」


 「まっ、冴と見てるから余計にな」


 「わっ、バカ! 人前で甘さ出すのやめてってば!」

 
 

 自信なさげにうつむいてばかりいたから気づかなかった。

 嬉しそうに微笑む冴ちゃんが指差した、南の空。

 厚く覆われている雲の隙間から、何本もの太い光が地上に向かって伸びている。



 その名の通り、天使が空から地上に下ろしたハシゴみたい。

 私がいるこの場所からは高い建物が邪魔をして、全部を見ることはできないけれど。



 「天使のはしごが消える前に、バイクで海沿いを走るぞ」


 「琉乃は私のバイクね。後ろに乗って乗って」