「その代わり……」
瞳を冷たく揺らしながら、お母さんは私の耳に唇を。
「婚約のことは誰にも言うんじゃないよ」
私にしか聞こえないドスのきいた声を、私の耳の奥に一刺し。
そして私に背を向けると、ピシッと背筋を伸ばして屋敷の方に消えていった。
「やったね、琉乃」
ジャンプジャンプで抱き着かれたから前につんのめりそうになっちゃったけど、冴ちゃんはふらつく私なんてお構いなし。
「親友と初デートだぁ!」
声までスキップさせ、私の体を左右に揺すってくる。
嫉妬の刃に心臓をけさ斬りされないよね……私。
総長に睨まれないか心配だよ。
冴ちゃんがデートなんて言葉を放ったから。