「あーあ、この楽屋の中にガミガミ怒ってばっかりの猛獣がいなかったら、琉乃ちゃんに電話をかけるのにな。生声が聞きたいのにな」


 ソファのせもたれに背中を預け、天上を仰ぎながら洩らしたボヤキ。

 俺の真横に立つ野獣の怒りの縄に、着火させてしまったようだ。


 「さっきから文句タラタラな俺をガン無視って、どんだけ心臓が腐りまくってんだよ!」


 ソファに座る俺に向けられた、力強い人差し指。



 「ちょっと前までスマホ放置やローだったくせに。必要最低限の連絡取り合うくらいしか使ってなかったくせに。あの女と出会ってからスマホ依存症になりやがって」


 我流は責めるように、俺の顔の前で人差し指をガンガン振り回すと


 「没収没収、本番が終わるまでマネージャーに預かっててもらうからな」


 あっさり俺の手からスマホを抜き取ってしまった。