私の唇に、固い親指の腹が押し当てられた。


 「琉乃ちゃんのオメガフェロモンって、極甘そう」


 ワントーン低い魔王ボイスが、私の鼓膜をいじめてくる。


 「味わいたい。ね、いいでしょ?」


 オスの目で見つめられ、指の腹で唇全体をなぞられたから、背筋がゾクリ。



 私の敏感な部分を狙われているこの状況に、体が動かない。

 鼓動が高鳴り、目玉だけが忙しなく左右に乱れ動いてしまう。



 推しが喜ぶなら、唯都様の心が救われるのなら、私はなんだってしてあげたいと思う。

 その想いは嘘じゃない。

 でも私の心の中に居座っているのは、綺麗ごとだけじゃないんだ。



 誰かの代わりはイヤ。

 私自身を見て欲しい。

 そのままの私を愛してほしい。


 わがままでネチャネチャな醜い感情が、間違いなくうごめいている。

 自分がどんどん嫌な人間になっている気がして、自己嫌悪の沼からはいあがれない。