「琉乃ちゃん、両手で耳をふさいでいてもらえるかな?」


 お兄さんっぽく微笑んだ唯都様が、私の両手を掴んだ。

 まるでヘッドホンのよう。

 私の手のひらを私の耳に押し当ててきたから、なんだろうとハテナを浮かべていたら……


 「チュッ」

 
 私に額に薄くて形のいい唇を押し当ててきたんだもん。

 耳に添えていた手が離れ、顔の前で震わせずにはいられない。



 
 「ひゃっ、こここっ困ります。突然こういうこと……両親の前なのに……」



 離れても消えない湿り気のあるぬくもり。

 額だけじゃなく私の心臓をいたずらに駆り立てるから、息が吸いにくい。
 


 「琉乃ちゃんに嫌われないための、おまじないくらいさせてよ」



 唯都様は家族に虐げられていた私に、歌で元気づけてくれた恩人なんです。

 どんなことをされても、絶対に嫌いにはなりませ……



 「俺は今から、悪魔になりきらないといけないからね」


 ん?


 「もう忘れちゃった? 琉乃ちゃんのキュートな手は、どこにあるのが正解なのかな?」