下駄箱で上履きに履き替え、遅れてやってきた川崎と挨拶を交わす。


「ちーさーか!おっはよ」

「川崎!おはよー」

いつものようにハイタッチをすると、川崎が首を傾げた。

「何かアンタの手…砂っぽい!」

「えっ?!」

「ドリブルでもしながら登校してきたの?」

笑いながらそう言った川崎のあながち間違いではないセリフに苦笑いをする。

公園で手、洗ってくるの忘れてた…。

「あはは…自転車の掃除してから来たからかな?ちょっと手洗ってくる!」

「朝から掃除って!行ってらっしゃーい」


私は、手を振る川崎に見送られながらトイレへ駆け込んだ。


チームメイトには、こっそり練習していることは言ってない。

別に言ってもいいんだけど、何となく秘密にしてる。

努力を見せたくないとか、そんなカッコいい理由じゃない。

練習したのに上手くいかなかったら恥ずかしいとか。
練習してるくせにそんなもんか、とか。
言われるのがこわい。

要するに、自分を守っているだけ。



「はぁ。部活、憂鬱…」


補欠で、仲間の応援をしているだけだった時は毎日楽しかったはずの部活。
レギュラーという重圧を背負った瞬間、こんなに心境が変わるなんて。



出しっぱなしにしていた水道を締めると、予鈴が鳴り始めたので、私は慌てて手を拭いて小走りで教室へ向かった。