教室に入ると、すぐに窓際の席で机に突っ伏して寝ている幡多くんの肩をたたいた。


「ねぇねぇ幡多くん」


機嫌悪そうに顔を上げたと思ったら、私を認識するなりまたすぐに頭を伏せた幡多くん。


「おーい」




ほとんど喋ったことがない私たちが会話をしている光景に、教室内の視線が少しだけ痛い。


でも私は気にせず続けた。


「幡多くんってば。教えよ、バースーケッ…」


よく通る私の声に、ガタッと勢いよく椅子から腰を上げたと思ったら「ちょっと来て」と私の腕を引いて教室を出た。








「手、痛いよ。どこ行くのっ…」


人気の少ない階段の踊り場まで歩いてきたところでようやく腕を解放した幡多くんは、すこぶる機嫌が悪そう。


「学校で俺にバスケの話すんな」

「え?なんで」


能天気な私の返事に、大きなため息と共に頭をガシガシと掻いた幡多くん。


「なんでも!!」


彼は私に半ばキレ気味にそう言い残し、踵を返す。


そんな、怒んなくてもいいじゃん。



私は、階段を降りていく幡多くんの背中を見つめながら声をかけた。



「じゃあ、シュート教えて」


だから…と振り向いた幡多くんに私は続けた。


「そしたら、秘密にしてあげる。幡多くんがバスケ出来ること。絶対に学校で言わない」


幡多くんは、上から目線の私のセリフに「…うざ」と呟きしばらく考えたあと、分かったよと渋々了承をした。