「幡多くん?だよね。なんでこんな所で…」


私が問いかけると、彼は無視してその場を去ろうとした。


「えっ、ちょちょ…ちょっと待って」


私はそんな幡多くんの左腕を掴んで引き止めた。


「なに?」


長めの前髪の隙間からでも分かる、鋭い眼差し。
立ち止まった幡多くんに睨まれるように見下ろされ、言葉に詰まる。


「えっと…」


なんで引き止めたんだろう。
いや、でもクラスメイトなのに無視するのも気まずいじゃん。
そりゃ声かけるよ。うん。


なんて頭の中でゴチャゴチャ考えていたら、いつの間にか私の手を解いて歩き始めていた幡多くんに気付いて慌てて追いかけた。


「待って…、幡多くん、バスケ部員じゃないよね?」

「うん」

「なんでここでバスケしてたの?」

「別に。バスケ部じゃなくてもするでしょ、バスケ」

「そうだけど、経験者のシュートだった」

「…」

「ずっとバスケやってきた人のフォームだった」

「…」

私は、黙り込んだ幡多くんの腕をもう一度掴んだ。




「ねぇ、教えて!あのシュート」


「は?」


私のセリフに、幡多くんの眉間にシワが寄った。


「私、バスケ部だけどめちゃめちゃシュート下手なの」

「で?」

「次の試合までに3ポイント決めれるようになりたい」

「だから?」

「シュート練習、一緒にやってほしい」

「ヤダ。むり」

幡多くんはそう即答すると、さっさと自転車に乗って行ってしまった。