月曜日の朝。


公園には、何度もドリブルシュートをする幡多くんの姿があった。


もう一緒に公園で練習することは無いと思ってたのに、嬉しくなって思わず駆け寄った。



「幡多くんっ…なんで」


私に気付いた幡多くんはポリポリと頬を掻いた。


「汐見さん見てたら、もう少しやりたいなって思った」



「えーっ、そうなんだぁ」



ニコニコと満面の笑みで相槌をする私に、幡多くんは「その顔、ウザい」と、顔を背けた。




嬉しい。


嬉しい。


もう、嬉しいしかないや。






嬉しさを包み隠さずニンマリしていたら、おもむろに話し始めた幡多くん。



「俺、中学までバスケやってて。この前、バスケ部の人が言った通り、緑ヶ丘ジュニアで」

私は黙って聞いた。


「でも、中3のとき交通事故で怪我して」

「日常生活に支障はないけど、激しい運動はやめた方がいいって言われた」

「バスケ好きだったから、暫くはボール見るのも体育館とか行くのもしんどくて。それがきっかけで親も離婚したし、俺のせいだなーって」

「高校では帰宅部入って、バスケのことは忘れるつもりだった。だから緑ヶ丘でバスケやってたことも、誰にも知られたくなかった」

「でもあの日。たまたま早起きして、たまたまここでボール転がってんの見て、1回だけだと思ってシュートしたら汐見さんに見つかった」

「忘れたかったけど、必死に練習する汐見さん見てたら昔の自分を思い出して。バスケ楽しかったよなーとか、試合で負けると悔しかったなーとか」

「そしたら、バスケと距離置いてんのがアホらしくなった」

「だから、部活とかは無理だけど、これからは好きな時に堂々とバスケしようと思って」



一気に喋った幡多くんは、大きなため息を吐いた。




「ありがとう汐見さん」



知らなかった幡多くんの過去。

しんどかったはずなのに、無理やりバスケを思い出させてしまった私にありがとうと言う幡多くんに。


私は何も言えず、ただ涙をこぼすことしかできなかった。




「なんで泣くんだよ」


「…だって、」


「本当よく笑ってよく泣くね、キミ」


「よく…って、幡多くんの前で泣いてない」


私はクルッと背中を向けてそう言い返した。
これ以上、幡多くんに泣き顔を見せるわけにはいかない。


「この前も泣いたじゃん。ここで」

「…えぇ?いつのこと」

幡多くんは、私の正面に立って、制服の袖で私の涙を拭った。


「俺と朝練出来なくなるの、さみしいって泣いた」


思わず幡多くんを見上げる。


「な…そ、そんなこと、私、言ってない」

思ってたけど!

「言ってた。顔が」

「な、なにそれ」

「違うの?」



幡多くんは、ふざけているのか真面目に聞いてるのか、全然わかんない。



「……ちがわない、って言ったらどうするの?」


私は、目の前にいる幡多くんを見つめて聞いた。


幡多くんは、少しだけ瞳を揺らして答える。


「………抱きしめる」






そのひと言と共に幡多くんにふわっと包み込まれて、

肌寒い朝に心地よくて、自然と目を閉じる。








「汐見さん」


名前を呼ばれて顔を上げると、幡多くんの顔が近付いてきたのでもう一度目を閉じた。






朝の公園は、幡多くんと私の秘密の練習場所になった。



これからも、一緒にバスケをするんだ。





end