「幡多くんさー、明日から早起きしなくていいね」

「んー?あぁ、うん」


ベンチで並んで座るのも、最後かも。


「実は、さみしいでしょ」

少しおどけて聞いたら、“んな訳ないだろ”って言われると思った。


「…どっちが?」


思いのほか真面目なトーンで聞き返されて、何も言えなくなった。


「…」

「…」


沈黙が、私の涙腺を刺激する。





やば。


泣きそう。



私は、幡多くんに背中を向けてベンチの端に座り直した。







「私…」
「汐見さん」




ほぼ同時に喋り始めたけれど、立ち上がった幡多くんが私の目の前まで来てしゃがんだ。



メガネの奥の瞳は、一体何を思っているんだろう。


寂しそうに見えるのは、勘違いなのかな。



幡多くんは、膝に置いていた私の手をギュッと握ると、過去イチ優しい顔で言った。


「明日、がんばれ。



汐見さんなら大丈夫」




その言葉に、耐えていた涙が頬を伝った。




「…なにそれ。
優しくするの、ズルだよ」



私がそう言うと、幡多くんはふっと笑って立ち上がった。


「じゃーね」




自転車で学校へと走っていく幡多くんの背中を、見えなくなるまで見送った。