週明け。

何日か雨が続いて出来なかったシュート練習が再開した。


幡多くんはまだ来ていない。


「ほっ」


放ったボールはリングに当たってネットをくぐった。

成功率は、だいぶ上がってきたと思う。

動画で見るシュートフォームも、まぁまぁキレイで一定。


転がったバスケットボールを拾いに行くと、背後でシュートが入る音がした。

振り返ると、スリーポイントラインに立つ幡多くん。



「…私が見てないところでお手本やらないでよ」



私の近くまで来てボールを拾い上げた幡多くんは


「だいぶ上手くなったな」


と、ひと言。




「え?そ、そうかな」


へへっと照れた私を見て幡多くんはいつものように、ふっと笑った。



「あ。汐見さん俺よりシュート上手いんだっけ」

「えっ」

「俺、実は鈍臭くてドリブルも出来ないから、教えてくんないかなー」

この前言ったこと、めっちゃ根に持ってるじゃん。

「お…怒ってるの?」

おずおずと幡多くんを見上げると、また笑われた。



「怒ってないよ」



最近、彼はよく笑う。



バスケットゴールを覆うように育った大きな木。

そこからキラキラと降り注ぐ朝日が眩しくて、なんだか幡多くんを直視できない。



「汐見さん」

「ん?」

「聞かないの?俺の過去」


真っ直ぐに私を見てそう言った幡多くん。

そりゃ気になるけど。

私が触れていいことなのか、わからない。



「聞いてほしいなら…聞く」


私がそう答えると、予想外の返答だったのか、幡多くんは少し目を見開いて、アハハと笑った。


「すげぇクールぶるじゃん」

「なっ…、だって!言いたくないのに聞くのも嫌だし」


笑われて不貞腐れた私がそっぽを向くと、頭の上に幡多くんの大きな掌がポンと乗った。



「うん。そうだね。
でも汐見さんには、そのうち話す」


何だか幡多くんの方を見れない私は、地面を見つめたまま「…わかった」と返事をした。






「そういえば。試合いつ?」



言いながら軽くドリブルをしはじめた幡多くんに、私は持っていた自分のボールを置き、ディフェンスのポーズをして向かい合った。



「来週だよ」


「ふーん。もうすぐ、か」


「そうだ…よっ!」


ボールを奪おうと手を伸ばすも、するりと交わされてしまう。


彼とこんな風に1on1をするのは、初めてかもしれない。

「じゃあさ、いつまでやんの?この朝練」

「え……」

投げかけられた言葉に、つい立ち止まる。

幡多くんはそんな私を見ると、「隙あり」と言ってドリブルシュートを軽く決めた。



いつまで、やるんだろう。

最近は、かなりシュートも入るようになった。
実戦ではまだだけど。

いつまでも、幡多くんに付き合ってもらうわけにはいかないのも分かっている。







「来週の、試合まで…かな?」



ぼやかして答えるつもりだったけれど、幡多くんは「了解」とあっさり頷いた。