「先輩っ、落ち着いてください」



両手で先輩の胸を押し戻した。


「汐見…。なんだよ、お前のクラス?」


私が、まぁまぁと引きつった笑顔で場を和ませると、先輩は周囲の視線を見て「悪い」と謝った。




「でもバスケ部の勧誘だよ。後ろにいるソイツ、緑ヶ丘の元エースだろ?」


先輩は幡多くんを指差して言った。


「えーっと…」


私も知らない…、キレイなシュートを打つ人ということしか。


ちらりと幡多くんの表情を確認すると、恐ろしく無表情だった。






「……ちがいます!人違い!」


私が大きな声でそう言うと、先輩と幡多くんが声を揃えて「は?」と言った。


「だ、だってこの人、運動出来ないですよ!体育の授業見てても鈍臭いし、バスケの授業のときもドリブルすらできてなかったですから!きっと私よりシュートも下手くそです」


私のフォローなのかディスりなのか分からないセリフに、先輩は、「そ、そうか…。それなら人違い…か?」と首を傾げた。



「そうです、そうです。さっ、ホームルーム始まりますよ!戻りましょう」


私は先輩の背中を押して、そのまま教室の外へと導いた。


怖くて幡多くんの方を見ることはできなかった。