それから2週間、私はひたすら同じフォームでシュートを打てるよう動画を撮りながら練習した。


最初は筋肉痛で部活に支障が出たけれど、今はもうそんな事はない。



休憩しようとベンチに向かうと、幡多くんは目を閉じていた。



「…幡多くん。寝てるの?」


問いかけても返事はない。

そりゃ、毎朝6時に公園来てたら眠いよね。


彼の目の前に立ち、目を閉じたまま微動だにしない幡多くんをジッと観察する。


「うわぁ。まつ毛なっがぁ…」

メガネ越しでも分かる、整った顔立ちに少しだけイタズラしたくなって、そっとメガネを両手で外した。
幡多くんは違和感を感じたのか険しい顔をしたけれど起きる様子はない。


「ふふ。メガネない方がかっこいいのに」


学校では見れない幡多くんの素顔を盗み見て、少しだけ背徳感を感じた。


そして、幡多くんのメガネを拝借して公園を見渡す。

「えー、見にくっ、きもちわる…」

逆に歪んで見える風景に、思わずそう漏らした。


ぐるっと一回転して元の向きに戻ると、目の前に幡多くんが立っていてギョッとした。


「ひっ」

「何してんの」

同時に、歪んだ視界にフラついた私の左腕を幡多くんが掴んで支えてくれた。

見えづらいのか、目を細めている。
睨んでいるのかもだけど、メガネが無いおかげで心なしかいつもより幡多くんの距離が近くて、心拍が速くなる。

「ご、ごめん。メガネかけてみたかったの」


私の子供みたいな言い訳を聞き終えると、幡多くんは私の顔からメガネを回収した。
 
「ガキ」

そのままメガネをいつも通りはめた姿に、少しホッとする。

ドキドキし過ぎてて、死ぬかとおもった。




「幡多くんが、寝てるからじゃん。
ていうか、腕…」



私の言葉に幡多くんは自分の手の先を視線で追うと、掴んだままの私の左腕に気付いてすぐに離した。



何となく気恥ずかしくなったのは、多分、幡多くんも同じはず。





「…今日はもう終わり?」


背中を向けた幡多くんがリュックを持ち上げながらそう聞くから、頷く。


だって、幡多くんもう行く準備してる。


引き止めれないよ。



「じゃ」


「うん。また」



見送る幡多くんの後ろ姿。



律儀に私との約束を守る性格。
真面目そうな見かけによらず、口が悪い。
メガネの奥の素顔は、…まぁまぁ。
朝はちょっといつも鼻声。
きっと、バスケが大好き。

毎朝一緒に過ごすようになって知った。