「これは、誤解なんですぅ」

 姉の媚びた声が聞こえ、途端に気持ち悪くなった。
 世の中には裏表のある人間など五万といる。その中に姉がいるのだと思えばいいのだけれど……幼い時から共に過ごしていても、慣れることはなかった。

「両親が亡くなって、本来なら私が栞の、妹の面倒を見るべきだったんですが、小さい頃から看護師になりたいことを知っていた私のために、相談もなく一人で高校を中退して、ずっと私を支えて来てくれたんです」

 いやいや、間違ってはいないけど、「手に職をつけるために、看護師になりたいの。だから栞。あんたを高校に通わせられるお金が無いの。分かるわよね」と言って中退するように促してきたのは、お姉ちゃんの方でしょうが!
 忘れたとは言わせないわよ、と言いたかったが、姉に向き合う、爽やかなイケメンを見て、グッと堪えた。

 なるほど、なるほど。これが網にかかった魚か。

「そんな苦労をかけた妹を驚かせたくて、黙っていたんです。あと、湊さんと無事に結婚できるかも不安だったので……妹に、変な期待をさせるわけには……」

 確かに。上等な魚をゲットしたのに、逃げられました、なんてメンツが悪いもんね。

「だけど、初めましてが手術室というのは、さすがにね。僕も驚かされたよ」
「それは……ごめんなさい」
「いや、そこは……私が」

 言うべきところだよ、と言おうとした瞬間、白衣を着た長身の爽やかイケメンこと、芳口湊さんが私の方に顔を向けた。