尚史さんが息を呑む。

「芳口病院を辞めて、他の病院に移ってほしい」
「でもそしたら、一ノ瀬の動向も分からなくなる。栞にまた接触してきたら」
「私もそこまで子どもじゃないよ。バックに尚史さんがいてくれるだけで十分、戦えるから」

 今までは中卒で二十代前半、女、という立場があり、姉から独立できなかった。いざという時が怖くて。でも今は違う。尚史さんの存在がどれほど心強いか。

「尚史さんも言っていたじゃない。そう言うところに惚れたって。だから大丈夫。それよりも私は、尚史さんも芳口先生から離れてほしいの。二人で自由になるんでしょう?」

 私に言ったあの言葉は嘘だったの?

『二人で自由にならないか?』

「そうだったな。幸いにもどこの病院も外科医不足だ。職に困らない」
「でも合う合わないがあるから、そこは私に支えさせて」
「そんなことをいうと、無茶苦茶甘えるぞ、俺は」
「っ! 大丈夫。覚悟しておくから」

 だから、本当の意味で自由になろうよ。