尚史さんと姉の間で繰り広げられる、二人の男と一人の女の話。

 詰まる所、芳口病院の次期院長の座を巡って、まず姉が巻き込まれたらしい。
 院長の甥っ子さんより、湊さんの方が条件はいいから、すぐに乗り換えることくらい、妹の私でも理解できるけど……。

「元々、素行が悪かったのが、湊との婚約話を聞いてさらに酷くなった。だから焚き付けてやったんだ。……一ノ瀬の妹を襲えってな」
「え?」

 驚きと困惑が私の中で渦巻く。まだ知り合いでもなかった時期とはいえ、尚史さんが誰かに私を襲えって言ったことがショックだった。

 咄嗟に尚史さんの腕から逃れようと押すが、ビクともしない。むしろ、より一層強く抱きしめられた。

 私の体の震えを抑えたかったのだろう。けれど逆に姉の怒りに触れた。

「それで? 私だけじゃない、栞にも分かるように説明して。何で栞を巻き込んだのよ」

 尚史さんは答えない。多分、私に聞かせたくないのだろう。だけど……。

「……私も知りたい」
「栞……」
「私にはそれを知る権利があるでしょう? 犯人が捕まったことも含めて」

 何故、警察から連絡がないのか。それはきっと、このことが私の耳に入ることを恐れた尚史さんの手によって、阻まれたのだ。

 姉の怒りに私も我に返ることができた。そして静かに、ゆっくりと問いかけた。勿論、怒りを滲ませながら。