「それで、私を轢いた犯人は捕まったの?」

 私の中では特に重要な話題ではなかったのだが、空気を変えるために訪ねた。いつまでも、姉と園子夫人がキャッキャしている姿を見たくなかったからだ。

 全身が痛い上に、頭まで痛くなりそうな話題で盛り上がってほしくはない。するなら余所でやってよ。

 しかし将来、親戚になるかもしれない園子夫人を前に、そんな言葉など言えるはずもなかった。

「ううん。それはまだ、と聞いているわ。だから栞が目を覚ましたら、事情聴取をしたいって言われたんだけど、すぐには……さすがに無理よね?」
「ごめん。まだ状況が整理できなくて……」
「目が覚めたばかりだもの。警察の方にもそう言って、待ってもらうように伝えておくわ」
「それでも、犯人に逃げられたら困るから、明日には、と言われる可能性が高いんじゃないかしら。栞さん、平気?」

 園子夫人の言う通り、犯人の逃走から証拠隠滅……それらをさせないための初動捜査は大事。
 私も、一刻も早く犯人を捕まえてもらって、慰謝料を請求しないと……。確か、入院代って高いらしいから。あぁ考えたらまた、頭が痛くなってきた。

「……一晩、頭の整理ができると思うので、大丈夫です」
「そう、良かったわ。琴美さんもフォローしてあげてね」
「ありがとうございます」

 一先ず私は、警察が来るまで考える猶予をもらえることに成功した。が、実際はそんなにのんびりとはしていられなかった。