「違う。俺じゃないし、犯人はすでに捕まっている。だから一ノ瀬は、俺と犯人の繋がりから栞の事件を結びつけたんだ」
「それじゃ……」
「いや、あながち間違っていないんだ。俺がヤツをそうなるようにけしかけたから」

 私は黙って尚史さんの言葉を待った。姉が「仕組まれていた」と言い、尚史さんは「けしかけた」理由を。

「ソイツは俺の一つ下の後輩で、湊の従兄弟なんだ。しかも院長の甥っ子で、湊からすれば、唯一自分の地位を脅かす存在だった」

 だから、湊さんもこの件には一役買っているのだと言う。
 さすがのお姉ちゃんも、これには驚かざるを得なかったのだろう。尚史さんを言及せずにただ黙っていた。

「年齢も近いし、人当たりや医者としての技術も五分五分。甥っ子といっても、院長が可愛がっている妹さんの息子だ。無理言って芳口病院に入って来たくらい、ヤツは次期院長の席を狙っていた」
「でもアンタは、湊さんのためにアイツを破滅させたわけじゃないでしょう。でなかったら、栞を巻き込むわけがないもの」
「……否定はしない。湊も大概だからな。いい人ぶっていても、やっていることはアイツと同じだ。だからアイツから一ノ瀬を奪って優越感に浸っているんだろう。お前が栞の悪い噂を流しても、院長夫人のように嫌悪しなかったのがいい証拠だ」