「目茶苦茶ですって? それを言うならそこにいる岡先生よ。目を覚ましなさい、栞。アンタの事故は仕組まれていたんだから、そこにいる岡先生……いえ、岡尚史によって」
「えっ」

 思わず私の体を支えてくれている尚史さんを見上げた。しかし、こちらを向いてくれない。

「嘘、だよね」
「……悪かったと思っている」
「っ!」

 逃げなきゃ、と思っても右足が動かない以上、無理だった。さらに尚史さんの体を押したくても、手が震えて力が出ない。いや、体全体が震えていた。

 けれどこれは恐怖じゃない。ショックで堪らなかったのだ。

「尚史さんが犯人だったの?」

 私を轢き逃げした……。

「違う。俺は――……」
「栞が私の妹だったから。私が湊さんの婚約者だったから、やったんでしょう!」
「……お姉ちゃん」

 怒鳴る姉とは正反対に、私の口から出た声音は冷淡だった。自分でも驚くほど。

「うるさいよ。私は尚史さんに聞いているの。いつも私を利用するお姉ちゃんの言葉なんか、信用できないんだから」
「それじゃ、栞は騙していた人を信用するの?」
「うん。少なくとも、お姉ちゃんよりは」

 最低じゃないよね、と尚史さんを見つめた。

「だから正直に答えて。尚史さんが犯人なの?」