しかし姉が私の噂を流しても、湊さんとの仲は相変わらずだった。むしろ湊さんは姉の本性を知っているのでは、と思ってしまうほどに。

「芳口先生は、お姉ちゃんのそういうところも含めて好きになったのかもしれません」

 私が岡先生に抱いたように。

「だから、作戦を変更しませんと」
「あぁ。それでなんだが、実行は栞の退院後にしたいんだ。構わないか?」
「退院、後?」

 私は驚きのあまり目を瞬きさせた。

「何故ですか?」
「病院内でやると、一ノ瀬姉以外の看護師や患者、あとは俺を妬んでいる医者とかが、栞にちょっかいを出しかねない」
「それくらいなら、私だって反撃できます。私は入院患者なんですから、何かあって困るのは向こうの方ですし」

 下手したら芳口病院に迷惑がかかる。でもそんなものは、私には関係なかった。

「違う。俺のダメージが大きいんだ」
「……岡先生。私たちは偽装恋人……ですよね?」

 思わず確認すると、明らかに嫌な顔をされた。これってもしかして……。

「今も栞はそう思っているのか? それともそれが望みか?」
「……岡先生は、違うんですか?」
「俺は本気で好きになったから言っている。栞は違うのか?」
「私は……」

 岡先生が近づき、私の首からコルセットを外す。

「本当はもう、外しても大丈夫なんだが、顔を背けられたくなかったから、そのままにしていた。だから、これからは嫌だったら――……」
「避けません! 本当に嫌だったら、キスされた後だってこんな風に話したりしませんよ」

 私も岡先生のことが好きになってしまったから。

 それを告げる前に、岡先生は感極まったのか、私に長くて深い口付けをした。