六年前の五月。両親を相次いで失くした私と姉は、親戚の元へ行かなかった。残してくれたお金を頼りに、姉の琴美は看護学校へ。
 手に職をつけるためだといい、二歳年下の私は高校を退学して就職。通い続けるだけのお金もないし、姉のような頭もない。それならば、と潔く辞めたのだ。

 けれど中卒の月収など、高が知れている。どんどん崩れていく貯金。職場で聞いた節約を実践し続けて、ようやく繋いできた。

 そして晴れて姉が看護学校を卒業。看護師になってからは、だいぶ生活しやすくなっていた。
 確かに引っ越しは馬鹿にならなかったけれど、それでも姉妹支え合わなければ生きていけなかったのだ。

 それなのに、姉は優良物件を捕まえたことを、どうして黙っていたの? 私がたかるとでも? 看護師になるまで支えてきたのは私よ!

 これからの入院生活よりも、裏切られた想いでいっぱいになった。

「……お姉ちゃん、おめでとう。それから院長夫人。姉共々、よろしくお願いします」

 それでも私は、祝いの言葉を口にして、下げられない頭の代わりに、顔に笑顔を貼り付けた。掛け布団の上で組まれた手を、ギュっと握り締めながら。