「確かに他の病院か、クリニックに移る選択肢はある。幸か不幸か、湊のお陰で実績はかなり積ませてもらったからな」
「だったら……ううん。尚更そっちへ移った方がいいですよ」

 寄生虫は、自分に都合のいい人間が近くにいれば察知して、擦り寄ってくる。そういう生き物なのだ。私はそれが姉だから逃げられないけれど、逃げられる内に逃げてほしい。

「岡先生……」

 思わず悲痛な声が出てしまった。すると岡先生は立ち上がり、私の目線に合わせるように跪く。

「どの道、同じ医療の世界にいるんだ。学会に顔を出せば嫌でも顔を合わせるだろう。だから俺は、完全にこの悪縁を断ち切りたいんだ」
「っ!」

 姉妹の縁は、法律上、切ることはできない。けれど赤の他人は違う。書類などなくても、簡単に切れるのだ。

「……いいなぁ」
「俺といれば栞の望みを叶えられる。逆に俺じゃないと難しいだろうな」
「……そうやって悪魔の囁きをするんですから、岡先生は」

 あの時もここで、私はその囁やきを受け入れた。悔しいけれど、その時にはもう、私の気持ちは傾いていた。岡先生へと。