咄嗟に口を手で覆っても、後の祭り。それでも羞恥に支配された私には、十分必要な行為だった。岡先生の顔がまだ、近くにあったから。

「それで、まだ俺らの邪魔をする気? こっちは協力してやっているのに」
「っ! し、失礼しました!」

 姉はやって来た時と同じように、大きな声で言い放ち、病室を出て行った。入口付近にいたから、他の患者や看護師にも聞こえてしまったかもしれない。

「岡先生……」
「何だ? まだ物足りないのなら――……」
「ち、違います。というか、起き上がらせてください」

 全身の痛みは薬で和らげられているため、一人で起き上がることはできるのだ。けれど岡先生が私の上に覆いかぶさっているから……。

 そう小言を言おうとしたら、背中に腕を回されて、岡先生に抱きしめられながら上半身を起こした。
 こういう点は岡先生も、医療従事者なんだと思い知らされる。私の体に負担がないようなやり方を取るんだから。

「ありがとうございます。けれどさっきのはやり過ぎだったんじゃないですか?」
「いいや。これで湊たち以外にも、俺たちの関係が知れ渡るから、あれくらいで十分だ。やっぱり足りなかったか?」
「わ、私はやり過ぎだと言ったんですよ!」

 確かに、娯楽に飢えている病院内では、すぐに広まるだろう。姉の声は大きかったし、あぁ見えて噂好きだから。
 しかし、一つだけ懸念があった。なにせ姉は、自分のいいように広める癖を持っていたからだ。