「岡先生!! ここをどこだと思っているんですか!」

 姉の怒号が病室内に響いても、岡先生はどこ行く風だった。だから当然、ベッドから降りる様子もない。
 逆に私は、恥ずかしさでいっぱいになっていた。

「一ノ瀬こそ、ここをどこだと思っているんだ。院内はお静かに、と師長がいつも言っているじゃないか」
「それをいつも破っているのがご自身だと、自覚してください!」
「俺はいつも、静かにしているが?」

 あぁ、なんとなくだけど、姉の言っている意味が理解できた。

 岡先生はただマイペースなんだ。姉や師長、といった看護師さんたちが、その行動に反応しているだけで。今だってそうだ。

「恋人との逢瀬を大っぴらにできないお前らと違ってな」

 相手の神経を逆撫でる発言と行動をしなければ、ね。そう思った瞬間、奥にあったカーテンを真横の位置まで引かれた。

「お、岡先生っ!」

 しかし、この声はそれに対してのものではなかった。背中に腕を回されて、気がつくと私はベッドに横たわっていたのだ。
 そして、先ほどの続きだと言わんばかりの岡先生の顔が近づく。

「まっ……」

 て、という言葉は、そのまま岡先生の唇に塞がれてしまい、発せられなかった。代わりに「んっ」と声が漏れる。
 が、気にしている暇はなかった。岡先生の舌が私の口内を蹂躙するのは早かったからだ。それなのに今度はゆっくりと、まるで味わうかのように優しいものへと変わり……。

「はぁ〜」

 唇が離れた瞬間、空気を求めてしまい、再び声が出てしまった。病室にはまだ姉がいるというのに。