「気落ちするのは分かる。相手は車だし、発見も遅い。防犯カメラやドライブレコーダーを屈指しても、捕まえられるかどうか、は運次第だからな」
「ありがとうございます」

 どうやら私を励ましてくれているらしい。けれど、それも医者だから? と邪推してしまう。
 今は二人きりだから、恋人の振りをする必要はないのだ。

「う~ん。やっぱり相手が警官だったからか?」
「何がです?」
「素直すぎて気味が悪い。昨日みたいな軽口が言えないくらい、疲れているんじゃないか? いや、慣れない入院生活にも、か。一晩経ってみると、また違うからな」

 思わず、目を瞬きしてしまう。すると案の定、怪訝な顔をされた。

「何だよ」
「私のことをらしくないって言いますけど、岡先生の方がらしくないですよ。確かに医者で、私の担当医で……恋人(仮)ですけれど。そこまで気を遣われると、気味が悪いです」
「栞の言う通り、患者を気遣うのも医者の役割だ。だがな、普段から恋人の振りをしていた方が、いざという時に対処できるってのを知らないのか?」
「でも、二人きりの時までしなくても……」

 いい、と言いかけた途端、岡先生の腕が伸びてきて、咄嗟に目を(つむ)った。

 今の私はベッドの上。しかも右足は包帯でぐるぐる巻きになっていて、自分ではほぼ動かせない状態。首のコルセットが邪魔をして、逸らすことさえもできないのだ。

 だから岡先生の機嫌を悪くしていいことはないのに、私は……。