「街灯も少なく、夜だったので、もしも他の車にも轢かれていたら……命はなかった、と警察だけでなく、(みなと)さんにも言われました」
「まぁ! あの子ったら」

 園子夫人の驚きように、私は首を傾げた。何故、驚いたのか、ではなく、新たな登場人物の名に疑問を抱いたのだ。

「湊……さん? 誰ですか?」
「あら、琴美さん。栞さんに湊のことを話していないの?」
「……はい。いくら姉妹でも恋人の話は……すみません」
「恋人?」

 誰が、誰の?

「そうなのよ、栞さん。琴美さんとウチの湊がね」
「ウチのってことは……もしかして」
「私の息子であり、栞さんの担当医なの。だから、これからもちょくちょく様子を見に来るわね」
「え?」

 園子夫人の息子ってことは、芳口病院の跡取りじゃない。

「お姉ちゃん?」

 思わず顔を見ると、「実はそうなのよ」と可愛く照れた仕草をした。いやいや、二十四歳の女が両手で頬に触れても可愛くないから!

 そりゃ、芳口病院って言ったら、ここら辺では一番大きい病院で、評判もいい。だから姉の就職が決まったと同時に、私たち姉妹はその近所に引っ越した。