姉と湊さんが戻って来たのは二時間後のことだった。
 すぐに戻って来るとは思わなかったから、まぁこれくらいは妥当なのかもしれない。が、これ以上になると、さすがに怪しまれる。

「だから、あんまり遠くに行くなよ。あと、羽目も外すな。そのくらい守ってもらわないと、こっちも困るんだ。できないっていうなら、もう引き受けないからな」
「分かった。気をつけるよ」
「でもまぁ、こっちも有意義な時間になったから、今回は勘弁しておくぜ」
「有意義?」

 湊さんの言葉に、岡先生が私に近づく。事前に打ち合わせをしていても、ちょっとドキドキした。

「色々あって、付き合うことにしたんだ」
「え? 誰と誰が?」
「お姉ちゃん、敬語が取れているよ。勿論、私と岡先生」
「何でそんなことに? いえ、そんな話になったんですか。姉である私の許可もなく」

 驚きを隠せないのは分かるけど……最後の一言に私はカチンときた。けれど、最初に反撃の声を上げたのは私ではなかった。

「これでも担当医だから、栞の年齢は聞かなくても把握しているんだけど……二十二歳にもなって、姉の許可が必要だったとはな。湊は知っていたか?」
「いや、それに僕のことも栞さんに言っていなかったんだ。このくらいで怒ることはないだろう、琴美」
「っ! で、でも~」

 分かっている。姉の目論見なんて。岡先生が相手では、今後も私を利用し辛くなる、と思っているのだ。

「そう言うわけだから、今後もよろしく頼むぜ、一ノ瀬」

 恐らく、姉に言っているんだろうけど……私にも言われているような気がした。