しかし、そういう問題ではなかったらしい。岡先生は深いため息を吐いた。

「それでも今の俺があるのは湊のお陰だからな。体のいい駒を傍に置くのに、湊は金を惜しまなかったから」
「まさか、学費とか?」
「そうだ。まぁ俺も、医者になりたかったから湊に近づいた口なんだけどな」

 岡先生が“悪友”と言い続ける理由が何となく分かった。友と呼べないくらい、相手を利用し合っている関係だったからだ。

「だが、もういい頃合いだと思うんだ」
「頃合い?」
「栞も言っていたじゃないか。利用することはないって。つまり栞も、自由になりたいんだろう? 一ノ瀬姉から」

 ずっと願っていたことだ。けれど両親を失い、二人だけになった姉を切り離せなかった。

「二人で自由にならないか? あいつらは結婚しても、俺らを利用するぞ」
「……でも、どうやって?」

 それができたら、できなかったから、私も岡先生も利用され続けていたんじゃない。今更そんなことを言われても、すぐに頷くことはできなかった。

 何より、自由になった私自身を、思い浮かべることができなかったのだ。

「お灸を添えてやるんだよ。もう利用させたくない、と思わせるほどの」
「だから、どうやって?」
「それはな……」

 岡先生は立ち上がり、私の耳元で囁いた。