岡先生に車椅子を押されて辿り着いたのは、大きな木の傍だった。

 今は春先だというのに、初夏のような暑さを感じる今日。日差しが強いわけではなかったが、ちゃんとそういうところを選ぶのが、何ともお医者さんらしかった。

 口を開くと、そう見えないのに……。

「さっきの話だけどな、湊の尻拭い、というか肩代わりをしていると、色々と俺にとっても都合が良かったんだよ」
「やっぱり美味しい思いをしているんじゃないですか」
「いや、そっちの美味しいとは違うんだが……まぁ似たようなものだな」

 岡先生はそう言いながら、近くのベンチに腰かけた。

「自分の実力と人望だと到底、到達できない体験を何度も味合わせてもらった」
「確かに、さっきの師長さんとの話っぷりでも、人望なさそうでしたもんね」
「一応、聞くが、俺たち初対面だよな」
「はい」

 さっき自己紹介をしたのに、何を今更。

「何でそう、ズバズバ言ってくるんだよ」
「それは……相手が岡先生だからじゃないですか? 丁寧な相手には丁寧に。ガサツな人にはガサツに対応しているだけです」

 そうしないと、相手に舐められるか呑まれるか、二つに一つである。早々に社会に出た、私なりの処世術だった。