「それは、どういう意味ですか?」
「分からないのか。というよりも、知らずにここに連れて来たわけじゃないよな」

 岡先生は体を起こして、今度は近くにいる湊さんに向かって言った。

「無論だ。ただ、お前が協力者だと紹介する前にやって来たから、ややこしくなったんだ」
「っ! こ、この人が協力者なんですか?」

 嘘でしょう? こんなガラの悪い医者……ううん、外科医ってさっき、この人言っていたような……。
 つまり、湊さんと同じだということに、私は内心、冷や汗を垂らした。

(おか)尚史(なおふみ)、といってね。こう見えても、優秀な外科医なんだ」
「……は、初めまして、一ノ瀬栞といいます」
「どうも。湊とは昔からの悪友でね。こういう時は大抵、駆り出されているんだ」

 まるで自分が湊さんの下っ端であるかのように言う岡先生。しかし、湊さんも負けてはいなかった。

「確かに今回は俺の方が悪いと思っているが、そういう言い方はないだろう? あと、婚約者とその家族の前なんだから」
「今更繕ったって、もう手遅れなんだよ。お前らの尻拭いを、どこの! 誰が! するっていうのか、言ってみろ」

 ふふふっ。岡先生のその言葉を聞いた私は、思わず手に口を当てて笑った。それに虚を突かれたように見る三人の目線など気にせずに、私は笑い続ける。

 だって、あの時の私は、何も言い返せなかったんだもの。
 エレベーターでお姉ちゃんと湊さんから話を聞いても、今の岡先生みたいに啖呵を切ることもできなかった。

 だから岡先生の姿が、とても頼もしく、清々しく見えたのだ。口調も性格も悪そうに見えるのに、何だか不思議な気分だった。