「サボりじゃなくて、休憩中。しかも、待っている最中なの。師長(しちょう)が近くにいると、待ち人も来なくなるから、別のところで休憩していてもらえますか?」
「わ、私は休憩ではありません! 岡先生が風紀を乱しているので注意しているんです!」
「あー、それならあっちの方が俺よりも風紀を乱していると思いますよ」

 こちらを指差す姿に、思わず同意したくなった。それにしても待ち人とは……火に油を注ぐのが好きな人なのだろうか。もしくはおちょくるのが……。

 しかし師長と呼ばれた看護師の視線がこちらに向き、私は一旦、思考を停止させる。

「これはこれは芳口先生。どうなさったんですか? もしかして……」

 師長の視線が横に動くのと同時に、冷ややかなものへと変わる。それの意図を私でも汲み取れるんだから、勿論、湊さんも。

「担当している患者の散歩ですよ、師長。心のケアをするのは、何も看護師だけの仕事ではありませんからね」
「ですが、常に人手が足りていないんですよ。二人でする必要はありますか?」

 ありませんよね、という副音声が聞こえてくるようだった。しかし湊さんは悠然と答える。

「こちらは今日、意識を取り戻したばかりの患者なんです。さらに言うと、警察もまだ事情聴取をしていません。担当医としての責任で、僕はここにいるんです」
「でしたら、一ノ瀬さんが同行する必要性はありませんよね」

 どうやらこの師長は、私が誰だか分かっていないらしい。

 確かに私とお姉ちゃんは、顔が似ていないけれど……。