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 エレベーターを降りた途端、すぐにざわめき声が聞こえてきて、改めて芳口病院の規模の大きさを思い知った。
 恐らく、来院する人たちが多いのだろう。入院患者と一般の患者とで区域が分かれているにもかかわらず、話し声の他に、名前を呼ぶ声さえ聞こえてきた。

 けれど、消毒液の匂いがするのは、どこも変わらないらしい。一階には、出入り口という大きな扉があちらこちらにあり、常に換気している状態であってもだ。

 私たちは会話することをやめて、黙々と移動をする。

 さっきの続きは……さすがにここではできないものね。

 けれど姉と湊さんの表情が見えない、というのは不気味で仕方がなかった。
 しかし、そんな気分もすぐに晴れることになる。いくつかある大扉の内の一つが真正面に控えていたからだ。

 まるで息の詰まりそうな世界から脱出する扉のように見える。何故ならば、そこを抜けると、一面芝生に覆われた広い中庭が私の目に飛び込んできたからだった。

 しかしそれも束の間。まるで別世界のように見えた瞬間、似つかわしくない声が聞こえてきたのだ。

(おか)先生! またここでサボっているんですか!?」

 私は反射的に声の方へと顔を向ける。すると、白衣を纏った医師と思われる茶髪の男性が、年配の看護師に注意を受けている姿が目に入ってきた。