え? 今なんて?

 私は湊さんの言葉に驚きを隠せなかった。けれどお構いなしに話は続いていく。姉によって。

「つまりね。私たちは患者さんの容態次第で、なかなかまとまった時間が作れないの。栞なら分かるでしょう?」
「まぁ、私みたいに決まった時間で仕事をしているわけじゃないことくらいは、知っているよ」
「湊さんは特に外科医だから、救急が多くて。だから結婚の準備も、なかなかね〜」

 進まないことは、姉にとって一番困ることだった。それが手に取るように分かるだけに、向こうの言い分も理解できる。

 結婚までの期間が長ければ長いほど、相手の気持ちが余所に向かうのではないかと焦り出し。気持ちが冷めてしまうことに、今度は苛立ちを隠せなくなる。
 期間が空けば、釣った魚に逃げられる可能性だってあるからだ。

 私だって、このチャンスを無駄にしてほしくはなかった。

「それで、こうして私を外に連れ出している間に、それを済ませたい、と?」
「ダメ?」

 私に肯定以外の選択肢などあるのだろうか。姉の顔を見て、私はすぐに諦めた。

「……いいけど、私が一人でいたら怪しまれない?」
「大丈夫。そこは抜かりないから。ね、湊さん」
「あぁ。協力者を用意したから」
「きょ、協力者!?」

 けれど湊さんは、私のそんな驚きに答えてはくれず、後ろに回って車椅子を押し始めた。チンっという音と共に、エレベーターが一階に着いたのだ。