「婚約!? お姉ちゃん、本当なの?」

 彼氏がいたこと。それが次期院長の立場である人物、というだけでも驚いたのに……今度は婚約だなんて……。

 だったら尚更、話してくれなかったのは何故?

 『無事に結婚できるかも不安だったので』という、病室で聞いた姉の言葉が脳裏を過った。

 あれは……言い訳ではなく、本心だったのかもしれない。

 それが答えだったと言わんばかりに、姉は私の前にやってきて「えぇ」と苦笑いをした。湊さんはそんな姉の代わりに答える。

「両親も、琴美との結婚を喜んでくれているんだ。だから栞さんは、何も心配することはないよ。勿論、入院代も含めて」
「えっ、それは本当ですか?」

 さっきは姉の戯言だと思ったけれど、今度は湊さんからの提案だ。信憑性の高い話に私は食いついた。
 すると、湊さんも私の目の前にやってきて、頷いて見せる。

「これから家族になるんだから、当然だよ。だから、ちょっと協力してほしいことがあるんだけど、いいかな」
「私にできることなら」

 けれど美味い話には裏がある、とばかりに湊さんと姉は顔を合わせて、ニャッと笑った。
 何故だろう。先ほどまではいい義兄の顔に見えたのに、今は姉と同じで嫌な感じしかしない。

 けれど待ったなど言えるわけもなく、湊さんはサラッとあることを口にした。

「こうして栞さんを外に連れ出している間、僕たちも外に行きたいんだ」