姉の手を借りながら、折りたたみ車椅子に座る。
 お尻の下は厚い布地があるだけで、とても頼りない。けれど今はそんな不満など口にはできる立場ではなかった。

 何せ、その車椅子を押しているのが湊さんなのだ。いや、湊さんの前で姉に愚痴ることなんて、できるはずもないんだけど……。それでも。

「次期院長先生に押してもらっているなんて……」

 いいのかな、と思わず心の声が口から漏れ出す。ここがエレベーターの中だったこともあり、私の小さな声は反響して、遠慮なく二人の耳へと届いてしまった。

 けれど後ろにいる湊さんの声は穏やかだった。

「それをまぁ、何と言うか、未来の妻と義妹への配慮だと思ってもらいたいんだけどな」
「まぁ、湊さんったら」

 嬉しそうな姉の声を聞いて、少しだけ安心した。園子夫人とも仲が良さそうだったから、そっちから攻めたのでは? と疑っていたのだ。
 けれど湊さんとのやり取りを見るに……。

「気を遣えなかったから、琴美は栞さんに僕のことを紹介できなかったのだろう。婚約したというのに」

 どうやら私の勘違いのようだった。