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「本当は、目を覚ましたばかりだし、病室で養生してもらいたいんだけど……」

 そういう湊さんの言葉を、お姉ちゃんは文字通り、言葉でねじ伏せた。

「でも、私も栞に付きっ切りで面倒を見るわけにはいかないですし、病院内を案内するのにはちょうどいいと思うんです。いくら院長夫人の計らいがあっても、私はまだまだ新人ですから。このような機会を作ってもらえるかどうか、分かりません……」

 まるで、他の看護師から虐めでも受けているかのような口振りだった。まぁ、次期院長というべき湊さんの恋人なら、周りからやっかみを受けていても不思議じゃない。

 これまで湊さんの存在を、私に話さなかったのと同じで、姉は家で仕事の話は一切しない人だった。

 その理由が妬みや嫉みによる嫌がらせだったら? 無理もないと思った。

 お姉ちゃんは、妹の私を利用するほど、自尊心が高い人だから。弱みなんて……見せたくない、よね。逆の立場だったら、しないと思う。

 けれど湊さんも、担当医ということもあって、簡単に首を縦に振らなかった。

「琴美の気持ちは分かる。だから、条件付きで許可しよう」
「条件?」
「担当医である、僕の同行。それなら、いざ何かあってもすぐに対処ができるから。琴美だけでなく、警察の方も今、栞さんに何かあったら困るからね」
「ありがとうございます、湊さん」

 結局、湊さんが折れる、という形での外出となった。