「もったいつけないで、早いとこ出してください。それと、ネズミは何処ですか?」
「あたチはここなのれチュ」

ひょっこりと、瞳子の着物の合わせから茶褐色の小さな生き物が顔を出す。

おずおずと、瞳子が差し出した短冊を受け取るイチの脇から、虎太郎もそこに書かれた文字を読む。
美麗な筆運びが記すのは「ふう」という二文字。

「ふう……風、か?」
「あ、漢字もありなの? 風子(ふうこ)とか?」
「いや、貴女、もうここに「ふう」って書いてるでしょ」
「え? 書き直しなし?」
「無しですよ。ちなみに、由来はなんですか?」
「ソレ必要? セキは直感でいいって……」

二人からの好奇心を向けられ、瞳子は仕方なさそうに答える。

「アンタが、イチ、でしょ。この子はセキの、……二番目の、“眷属(けんぞく)”だから、それで……」

だんだんと小声になっていく様が可愛い。虎太郎はそうかと微笑んだが、イチはふん、と、鼻を鳴らした。

「私の真名(なまえ)は別にあるんですけどね。多分、由来はそちらから───」
「まぁ、俺の一番目の“眷属”だからってのも、あるぞ」
「は? 初耳ですよ、それ。なんですか、その単純な理由」