瞳子の言葉が、時々よく解らない。首をひねっていると、後ろからやってきたイチが鼻で笑った。

「キレイだって褒められてんですから、素直に受け取って笑っとけばいいんですよ。容姿以外、なんの取り柄もないでしょうに」
「……お褒めイタだき、ありガトウ、ございマス」
「で? ネズミの名前は決まりましたか?」

腕を組み、瞳子に向かって片手を差し出すイチの姿に、虎太郎は内心で突っ込んだ。

(お前、絶対に瞳子の前を歩くなよ)

偉そうな態度の従者に、ムッと顔をしかめていたのもつかの間。
瞳子は、名を記したであろう短冊を手に、急にしどろもどろになる。

「い、一応、書いてはみたんだけど……」
「けど、なんです? さっさと終わらせて、さっさと出立しますよって、朝餉の席でお話ししましたよね?」

(いや、遅れて来た分際でお前が言うな、だろうが)

虎太郎は内心あきれ返っていたが、瞳子の様子がいじらしく、割って入った。

「先程も言ったが、名付けは直感で構わない。あと、便宜上、呼びやすいにこしたことはないから、短い名のほうがいいだろう」
「そ、そうよね。うん、それで決めたんだけど」