朝餉を摂りながらの軽い打ち合わせののち、身支度を終えたら中庭で落ち合う約束はしていたが。

(まさか、オレたちのほうが瞳子を待たせるとはな)

「瞳子、待たせてすまな───」

あわてて駆けつけた庭先。
緋色の上衣と黒い筒袴に身をつつんだ後ろ姿を見つけ、息をきらして声をかけた。

「……なに?」

きらめく黒い前髪がさらりと揺れて、その奥の切れ長の澄んだ眼が、怪訝(けげん)そうにこちらを見上げてくる。

「どこか、変?」

次いで、不安そうに揺れる声と、上気し淡く色づく頬。
何も言えずにいる虎太郎の前で、沈黙を良しとしない彼女が、いらだったように自らの衣のそでを振った。
薄紅をさしたような唇を、不満げにとがらせる。

「こういうの、着慣れてないのよ! おかしいとこがあったら黙ってないで、おかしいってちゃんと言って!」

銀糸で表される蔦葛(つたかずら)の模様は、唯一無二の己の“神紋(じんもん)”。それを、陽の光のなかでまとう“花嫁”が、まぶしかった。

「ああ、悪い。瞳子が綺麗すぎて、言葉にならなかっただけだ。着付けも、きちんとできてる」
「……アンタって……天然?」
「ただの、なりそこないの“神獣”だと思うが?」