《六》

身支度を整える虎太郎の横で、イチが納得がいかないとばかりにうなる。

「あれ、なんですかね? (もの)()の気配は全く感じませんでしたけど……いきなり人が変わり過ぎですよ、恐ろしい。
それとも、あの女、何か企みが───」
「イチ」

やや強めに名を呼べは、当人も気まずそうに口をつぐんだ。

「あれが本来の瞳子なんだろう。いろいろと理不尽な想いをして、攻撃的になっていただけじゃないのか?」
「だと、いいんですけどね……」
「それに、萩原家への同行も、すんなり了承してくれた。
逆に、何が不満なんだ、お前は」
「まぁ……それは、そうなんですけどね……」

歯切れの悪い従者に、虎太郎は溜息をつき、うながした。

「言いたいことがあるなら、いつもみたいにハッキリ口に出せばいいだろう」

何を遠慮してるんだと問えば、イチは虎太郎の腰に、今しがた吊るされたばかりの“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”を見やった。

「……本当に、何もなかったとお考えですか?」

己の“花嫁”と剣の付喪神との間で、何か交わされたのではないか、と。

歯切れが悪いのは、虎太郎が瞳子を「気に入っている」以上の感情で見ていると、思ってのことだろう。