「それだけって……、夜中眠ってるところに、ヒトだかバケモノだか解らないもんが出てきて、いい気分すると思う!?」
「いや、良くないだろう」

キッパリと告げる声と共に、セキが顔を上げる。わずかに寄せられた眉と、憂いを映した焦げ茶色の(まなこ)が、瞳子に向けられた。

「本当に、すまなかった。
……どうする? この剣をこのまま手元に置くか?」

自然と、瞳子は首を横に振っていた。

「アンタに、返すわ」
「……そうだな」
「だって」

自分の落ち度を恥じ入るように伏せられた、セキの目線が、上がる。

「私のことは、セキが護ってくれるんでしょう?」

口から出た言葉は、少しでも彼の心を楽にしたい想いからだった。
それは、瞳子のなかの負い目があった以上に、自身の、人としての在り方を思いだしたからだ。

(私……この世界に来て、あまりにも偏った目でセキ達を見てた)

男だからと、(はな)から彼らを信用していなかった。

上司や白狼に無理やり襲われたこと。自分の周りにいた男がそうであったように、きっとセキ達もそうに違いないと決めつけていた。

(自分が傷つきたくないからといって、他人を傷つけていいことにはならない)