セキの真っすぐな眼差しの意味を勘違いしたことに気づき、瞳子は自分でも驚くくらい動揺した。

(なんで? なんで私、頭下げられてるのっ……?)

予想外のセキの態度に、瞳子の胸がしめつけられる。

「……それで? 具体的にはどんな酷いことをされたというんです?」

いやに冷ややかな声がかかり、瞳子は我に返ってイチを見た。明らかに、瞳子を軽蔑(けいべつ)しているようだった。
それが、昨晩の出来事に対してか、己の主人に(こうべ)を垂れさせていることによるものかは、分からない。

イチの問いかけに、ようやく瞳子は少しの平常心を取り戻す。口先だけで、感情をこめずに事実を話した。

「あんた誰って訊いたら自分と契れば名前教えるって返されたから速攻拒否ったわよ。そうしたら」

言いかけて、瞳子は目の前のセキを見た。まだ、頭を下げたままの姿勢でいて、その表情はうかがえない。

「……そうしたら、消えたわ。いきなり出て、消えた。なんなの、アイツ」

感情のこもらない声で告げ終えても、セキが顔を上げずにいるのが、どうにも居心地が悪かった。

「それだけ、ですか?」

まるでそれ以外のことがないといけないかのようなイチの確認に、瞳子のなかの怒りが再燃した。