《五》

うとうとと、眠りにつくかつかないかの、夢うつつの時。
瞳子は、自らの頬をなでる冷たい風に、ふいに目を覚ました。

(ん……障子、きちんと閉めたはずなんだけど)

ぼんやりとした頭で、そちらを見る。すると、開け放たれた障子の手前、月明かりのなかに、人のカタチをしたものが見えた。

「ちょっ……!」

急激に覚醒する瞳子の前で、その人型は光をまといつつ、こちらを振り返った。

『ほう。我が()えるか。……どれ』

かすれた低い声音で告げる男の顔は、見覚えがない。瞳子へと伸ばされた手が、瞳子のおとがいをつかむ。

『あれにしては、趣味が良いではないか。───の君と瓜二つとまではゆかぬが、美しい。
我とも、契りを為すか』

金縛りというものか、瞳子の身はすべての機能を失ったかのように微動だにできなかった。
まばたきすら、できない。

『返答は?』
「……あんた、何者?」

まるで、そのためだけに許されたかのように、瞳子の口からようやく言葉が発せられた。

()せたような金色の髪はさらりと長く、左右の瞳の色は、青と緑。それ以外の部分の輪郭は淡い。生き物の気配をさせずに無機質だ。

たやすく連想させるのは、このモノの正体。