(口にだしたら、殺されるだなんて)

物騒な話だ。
禁忌だかなんだか知らないが、この“陽ノ(ひの)(もと)”というところは、瞳子にとって最悪の世界でしかない。

(だけど───)
「瞳子?」

虎太郎が、瞳子の様子を窺うように、顔をのぞきこんできた。

「お前も、眠いなら休んだほうがいい。慣れないことばかりで、いろいろ疲れただろう」
「……あんた、名前……」
「名前?」

不思議そうに見返され、瞳子は考えていたこととは違うことを()く。

「私、は……あんたのこと、なんて呼べばいいの? 本当の……私が知ってる名前は、口にだせないワケだし」
「ああ」

虎太郎は、そんなことか、といった調子で答えた。

「瞳子の呼びやすいように、好きに呼んでくれたらいい。虎太郎でも赤狼でも尊征でも」
「……逆に迷うのよ、あんたの呼び名、多過ぎて」
「それは悪かったな」

と、ちっとも悪びれる様子もなく瞳子に笑いかけながら、虎太郎はそうだなぁと、あごに手をやった。

「では───セキと、呼んでくれ。
“花嫁”が対となる“神獣”の真名を告げる前は、皆、その通称で呼ぶのが慣習だとイチから聞いている」