宝石などという綺麗な比喩が自然と浮かんだのが気恥ずかしくて、瞳子はわざと色気のない(たと)えで自身の思いつきを打ち消す。

「……完全に眠ってしまっているな」

その静かな声に目をやると、虎太郎が茶褐色の小さなネズミの毛並みをそっとなでていた。

「起こすのも可哀想だ。名付けは明日にするか」

名付けとは、“眷属”を迎えるにあたって必要な儀式だと、瞳子はこの屋敷に来る前に虎太郎達から聞いていた。

(名付け……名前、か)

虎太郎の“神獣”としての『真名(なまえ)』は、瞳子しか【知らない】。
彼ら───“神獣”にとっての『真名』とは、それすなわち『力』に直結するもの。

初めてその名を知り、呼べる存在である“花嫁”は、その『力』を支配する者となるらしい。

そして、自らの『真名』を知らない“神獣”は、本来の『力』を十分に発揮できないという。

(私の口を【塞いだ】のも、私を死なせないため)

虎太郎が血相を変えて瞳子の口を自らの手で覆ったのも、イチが面倒がりながらも瞳子に『真名』を口にさせない暗示をかけたのも。

すべては、“神獣”自身が己の『真名』を知る前に“花嫁”の口から『真名』を言わせないためだ。