「だから、礼は不要だ」

得意げに、にやりと笑う顔が憎たらしい。そう思う反面、不思議とそれほど不快にはならなかったことに瞳子は驚く。

「ドライヤーいらず……」
「何? 銅鑼(どら)嫌?」
「ドライヤーよ! ヘンな変換すんなっ、馬鹿!」
「っ……瞳子は面白いな」
「ヘラヘラ笑ってんじゃないわよ、変態ッ」
「……悪い……瞳子は本当に、可愛いな」
「だからっ……なんで笑ってんのよ、あんたはッ……!」

瞳子が言葉を重ねれば重ねるほど、すげなく接すれば接するほどに、虎太郎の自分を見る目が優しく甘くなっていく。

(コイツなに!? 真正のドMなの!?)

心のなかで突っ込みつつも、本気で虎太郎を嫌うことができないでいるのを、瞳子自身、認めざるを得なかった。

(ヘンな奴! なのに……)

瞳子は、手の内の盃に口をつけた。
視界に入る、虎太郎───いや、赤い“神獣”につけられた“痕”。

(なんでだろ……嫌じゃない)

紅く色づいた小さな丸い点。
噛み跡というよりは、何か紅い宝石でも埋め込まれたかのように、光っても見える。

(まぁ、血マメみたいに見えなくもないけど)