「……どうしても瞳子が“神獣”としての『俺』を見たいというのなら、なんとか瞳子が帰るまでに……いや、守れない約束はしないほうが良いのか、俺……」
「だからっ、私が心配してるのは───」

瞳子はそこで、はたと我に返る。
……何を、言いかけていたのだ、自分は。

(コイツが“神獣”の姿になろうがなれまいが、私には関係ないじゃない)

「……責任もって護ってくれるっていうなら、あんたが狼になれなくても、別に構わないわよ」
「そうか」

頭を抱え悩み中だった虎太郎が、ホッとしたように瞳子を見た。
その手が、すっ……と、瞳子の後頭部に伸びた。

「何っ……」
「“神獣”としての本来の力は弱いが、俺でもこのくらいの『力』はある」

思いきり仰け反った瞳子から、すぐさま離れていく手指。
虎太郎は、自らのその手をいたずらに結んでひらいてみせる。

「いきなり触れて悪かった。髪が濡れてるのが気になってな」
「は!? ……あ。ウソ、乾いてる……!」
「濡れたままでは風邪をひきかねない」

ありがとう、と、瞳子が素直に礼を言いかけた瞬間。

「というのは口実で、瞳子の髪に触れたかった」
(は?)