「……そうだな」

実際のところ、イチの方が神格(しんかく)という意味では高いだろう。
自分が彼を配下───正式な“眷属(けんぞく)”として扱うことができないのは、その部分に引っかかりがあるからだ。

「瞳子は……偉そうな男が好きなのか?」

話の流れから、瞳子が己に求めている方向性を思い、訊いたのだが。

「はあ? まさか!
そんな男が前歩いてたら、後ろから蹴り飛ばしてやるわよ!」

快活ではあるが穏やかでない返答に、虎太郎は失笑する。

「……分かった。イチには瞳子の前を歩かないよう、よく言って聞かせる」
「……そうしてよ」

虎太郎の軽口に対し、瞳子はバツが悪そうに唇をとがらせた。

ややしばらくの沈黙が落ちる。

(かたわ)らでは、調子にのって酒を食らったせいか、ネズミが腹を出していびきをかいていた。

(そうだ。名付けをしてやらないとな)

そう思い、瞳子を見れば、バッチリと目が合った。
酒が入ったためか少しうるんだ瞳で、何かを期待するような眼差しを向けてくる。

「どうした?」

とまどいと高揚を抱え虎太郎が問うと、瞳子は紅い唇をひらいてこう言った。

「あんた、“神獣”ってことは……狼に、変われるんでしょ?」